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2014年1月12日

認知症でも働く力

山陽新聞夕刊コラム「一日一題」を毎週木曜に担当しています。夕刊発売日から約1ヶ月遅れですが 少しずつ毎週日曜に載せていきます。
最新号を読みたいかたは 毎週木曜日の山陽新聞夕刊をどうぞ。夕刊はコンビニエンス・ストアにも置いてありますので、50円持っていって買っていただけると新聞社の方も喜ばれると思います。
(・・・といっても 1月末までなのですが)

80歳の吾平さんは身体は割と元気なのに認知症の症状がひどくて、自宅に訪問診療に行っていた頃には毎晩のように深夜ゴソゴソ起き出してはあちこち家具を動かしたり台所で蛇口を開けっぱなしにして水浸しにしたりするので家族もほとほと困り果てていた。薬でのコントロールにも限界があって、家族の希望でグループホームに入居した。
施設での診療を引き継いでくれた先生に会う機会があって数ヶ月後の様子を聞くと、なんと吾平さん、グループホームでは模範生だという。
認知症で話のつじつまがあわないのは当然として、3食よく食べ夜は疲れてよく眠り、台所で水遊びすることもない。そして昼間、暇さえあれば戸外へ出てひたすら草取りをしてくれるのだという。誰も手入れする人がいなくて草ぼうぼうだった施設の敷地内は吾平さんが黙々と草むしりしたおかげで隅々まで雑草一本ないほど綺麗になり、抜く草がなくなって勢い余って隣家の敷地まで進出したところでストップがかけられた。そこでつけられたニックネームが「人間ルンバ」。ルンバというのは置いておくと床の上を勝手に動いてホコリを取ってゆく円盤形のお掃除ロボットである。
土と共に生きてきた高齢者には認知症になってなお農作業の遺伝子が備わっている。家族の都合で昼間から家の中に閉じこめられて何もすることがないと、本来人に喜ばれるはずの「労働」のためのエネルギーが周囲にとっての「問題行動」に形を変え、薬漬けにされてしまう。人間はいくつになってもたとえ認知症になっても、自分にあった形で働く力を持っている。