〒700-0924
 岡山市北区大元1丁目1番29号

電話応対時間 平日 9:00~17:00

トピックス TOPICS

2010年8月15日

異人達との夏

ごうのとら の認知症のひどい90歳代女性の患者さん。(7月15日、6月26日参照)
7月の末になって急に食べなくなり、仕方なく自宅で少量の点滴をしていますが、介護している娘さん(といっても70歳前くらい)の疲れも目立ってきました。
先日伺った日には朝方、娘さんに「もう私は死ぬかもしれんなぁ…」と言われていたそうで、「おばあちゃん、今はお盆だからおじいちゃんも帰ってきとるかもしれんけど、ごうのとらじゃから、きついからまだ来んでええ、いうて言うとると思うよー」と言ってあげたら「それもそうじゃなー」と納得していたとのことでした。
「どうですか?」と耳元で大きな声で聞くと「おお、大森先生ですか… どうも、お世話になります…」と挨拶されます。
はじめの頃は「いえいえ、大森でなくて小森です」と言っていたのですが、なかなか覚えてはもらえないので、いつも はいはい、と適当に話を合わせています。
どうやら何十年も前に、近くに大森先生というお医者さんがいたらしく、「お世話になっとったけど あの先生も死んでしもうた・・・」と言われて、なるほどそういうことだったのかと知りました。
最近はそれもわからなくなってきたのか、行くたび大森先生にされるので”大森先生”に成りすましています。娘さんが「おばあちゃん、19の頃に戻っているみたいです」と言われるのでよくよく聞くと、どうやら 訪問看護で清拭してもらっているときに「あの先生のこと、好きだったんよー」としきりに言っていたそうです。そうかー。19歳の頃、大森先生が好きだった気持ちを90歳超えてなお持ち続けているんですね。タイタニックの映画みたいです。
松山にいる頃に診療に伺っていた、97歳になる男性患者さんのことを思い出します。デイサービスなどにも一切行かず、89歳の奥さんと一緒にずっと自宅で過ごされていました。食事を食べなくなってきてだんだん弱って足腰立たなくなり、私が松山を離れる3月まで1日ラコール2本と少量のお菓子類で1年近く生きておられました。訪問時、たいていは目を閉じてじっと座っているだけのことが多かったのですが、弱ってきた頃にはだんだん独り言も多くなってきて、夜には譫妄もみられるようになりました。奥さんの解説によると、何十年も昔に亡くなったはずの人に話しかけていたり、教壇に立って生徒に話しかけていたり(元小学校の教員)、いないはずの人が目の前に見えていたりしていました。
最近、毎週診療に伺っている80代の男性患者さんも、ベッドに寝ながらも、いつも自分が座っている革張りのロッキングチェアを指さして、あそこにもう1人の自分が座ってこっちを見ている、自分は死んだのかもしれない、と不思議なことを言われていたと聞きました。精霊が帰ってきているお盆のこの季節、認知症のある高齢の患者さんたちは いろんな人達と会っているのでしょう。