若い頃から仕事の関係で備前焼作家の家に出入りしていた Cさん。「備前焼がぎょうさんあるから、持って帰られえ~」訪問すると、形の違う備前焼の花瓶が3個、持ち帰るときに割れないようにとビニール梱包と紙袋が用意してありました。「こんな高価なものは頂けません。”なんでも鑑定団”に出せそうな花瓶ですよ。」と言ったら「なんでも鑑定団に出せそうな分は娘が全部持って帰ったわ」と笑っていました。
( Cさん、いつまでも笑っていて下さい・・・・・(*´v゚*)ゞ)と心の中でそっと願いました。 by ナースかおりん
追補?! ナースかおりんが、「いつまでも笑っていて下さい・・・・・」と願ったのには訳があります。
癌の治療になすすべがなくなってCさん(女性)が自宅療養を選び、初めて診療に訪問したのが7月でした。少しずつ病気も進んで、一度は呼吸が苦しくなって 自宅で胸水を1Lほど抜いたこともありましたが、その後また少し元気になって、思いのままに自宅で過ごされています。病院の主治医から病状もだいたいの余命も聞いて悟られています。そんな日々のなかのある日の訪問の時に、見事な花瓶を頂いたのでした。
ベッドに座ってプチプチで花瓶を1つ1つ包みながら、「・・・いつまでも生きていられるわけでもないし・・・それでも今までいろんな人に世話になってきたから、してもらった恩はきちんと返して、自分にしてあげられることはしてあげて、借りがないようにしとかんといけんと思うんです・・・」というCさんの言葉に、自分の運命への覚悟のようなものを感じました。 Cさんの言葉を聞きながら、以前肺癌で最期まで自宅で過ごして亡くなった男性患者さんのことを思い出しました。 亡くなる数週間前に訪問したとき、訪ねてきた友達と一緒に居室のケーブルテレビでボートレースを見ながら手元のリモコンを操作していて、聞けば場外券をネットで買っているのだとか。そして数日後にケアマネさんから聞いたことには、4000円勝った!らしく、それを奥さんにあげるといってとても喜んでいたのだとか。 その頃すでに歩けなくなってベッド上寝たきりになっていたので介護は奥さんが一手に引き受けていたのですが、その奥さんのために何かしてあげたい、感謝したい、という気持ちを実現することができたのがその4000円だったのでしょう。 患者さんは 大なり小なり周りの人に、いつも世話になってすまない、迷惑かけて申し訳ない、という引け目のような気持ちを持っていると思います。患者さんから何かしてもらうことでその気持ちが少しでも楽になったり、患者さんが 自分でも何かしてあげられた、喜んで貰うことができた、と感じることで それが生きる支えというか、満足につながるのであれば、喜んでそのように”してもらう”のもいいんじゃないかと思います。というわけで、Cさんからの「持って帰られぇ・・・」という申し出を一度は断ったものの、やっぱりこれは受け取ってあげるべきだと思ってありがたくいただいたのでした。
この日一緒に訪問していたナースかおりんと共に、とても喜んでお礼を言ったことはいうまでもありません。
Cさん、紙袋にいれてくれて、嬉しそうに手渡してくれました。入院中だと、身の回りの身辺整理?をしようにも 病室に持ってくることのできるものは限られています。なにより、親しくなったスタッフに患者さんが喜んで貰おうと思って何か渡そうとしても、病院の規則で受け取ってあげることもできないでしょう。こういう”心のつながり”を実感できる 在宅医療って、大変なことも多いですが やっぱり楽しいですね。