ももたろう往診クリニックでは、岡山大学医学部から実習生を受け入れています。
実習を終えた学生さんの感想をご紹介します。
岡山大学医学部5回生 【実習期間】2023年2月 5日間
ももたろう往診クリニックの扉を開くと私の知っているクリニックの像は崩れ落ち、代わりにデスクがずらりと並んだオフィスのような空間が目に入ってきました。突如として始まった「ありがとうございます」「お世話になります」といった謎スピーチを頭の中で処理できないままに自己紹介をして、促されるままに車に乗りました。実習時間を知ったときから、これから長い潜水をするような心構えでこの地に足を踏み入れた私は、案の定、そのままぶくぶくと往診の水底へと沈められていきました。
車では、窓の外を見慣れない景色が流れてゆくのを眺めながら、私は往診がどのようなものなのかについて考えを巡らせました。家にベッドで寝たきりの患者がいて、横には点滴が下がっていて、家族はどうしているのだろうか? 嫌ではないのだろうか? 介護した家族に相続がいき、亡くなった後に他の家族と揉めるのだろうかと要らぬ想像までしながら、訪問先に向かいました。
伺ったお宅の中で、寝たきりで言葉も聞き取りづらく、尿道カテーテルの入った男性が印象に残っています。おそらく予後はそう長くはないであろうということは、見ただけで感じることができました。先生は診察が終わった後、家族に対して、床に臥せた父親がこれからどうなっていくのか、順を追って説明を始めました。傍から見ていた私は、胸を押さえつけられるような痛みを味わいましたが、娘さんは「もう覚悟はできています」とはっきりとおっしゃいました。実は、先生は家族への説明を事前に丁寧にされていました。家族としては不足の事態で慌てて見送るよりも、心構えができていたほうが落ち着いて患者さんを見送ることができるとのことで、家族の姿を見てもそのように感じました。
実習に慣れてくると、患者さんだけでなく家族に目を向ける余裕が出てきました。そのため、私は家族が患者さんのことをどのように考えて介護をされているのかという観察を始めるようになりました。当初のイメージとは異なり、悲壮感を漂わせて嫌々介護をしているという人は少ない印象でした。とあるお宅では、陽気な性格の娘さんが我々と楽しく会話をしながら、慣れた手つきで自分の母親に吸引をしたり、胃瘻に栄養を流し込んだりしており、むしろノリノリで介護を楽しんでいるようにも見えました。
家に帰ればぐったりとして床に就き、朝になればそのまま出かけるという5日間でしたが、それとは引き換えに、一軒一軒伺うごとに自分の経験を一つ一つ塗り広げていくことができました。大学病院に帰っても、患者を診る際にその人が家に帰った場合のことを思い浮かべることができると思います。
最後になりますが、小森先生をはじめ、先生方、看護師の皆様、事務の皆様、5日間このような貴重な経験をさせていただきまして本当にありがとうございました。
2023年3月4日