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2025年5月20日

看取りを通して示された道

先日、看護師の大先輩から「人体Ⅲ」が始まったわよ!というLINEが届き、わくわくが止まりません。

NHK スペシャル「人体」をご存じでしょうか? タモリさんやノーベル賞科学者の中山伸弥さんの司会で、最新科学が解き明かした‘いのちのメカニズム’が、最新技術で映像化されている番組です。私がこの番組を知ったのは 6 年ほど前です。当時勤務していた病院で、「看護の生理学」と題して、医学の視点で学んできた生理学を看護の視点で学びなおしてみようという取り組みをしていた時でした。

生理学を看護の視点で「概論」「生命のつながり」「内部環境」「呼吸・循環と体温」「食と排泄」「皮膚の清潔」「活動」「睡眠」と学びすすめる中で、NHKスペシャル「人体」や「ヒューマニエンス」は学習教材としてとても役に立った番組です。この一連の学びを貫いていたテーマがありました。それは、「生まれ、生き、死ぬ」という過程は、1つの命の歴史という側面と、38 億年の生き物の歴史という側面があるということでした。

少し話が変わりますが、クローンを創り続ける無性生殖の生物には寿命がありません。オスとメスによる有性生殖の生物の誕生が‘死’というしくみを生みました。詳しい話はこの紙面では避けますが…興味のある方は下のイラストを眺めてみてください。ここでお伝えしたいのは、我われ有性生殖の生物の子孫は、常にその時代の環境に最も適応した優れた遺伝子を持って存在しているということです。

Apple の創業者の 1 人であるスティーブ・ジョブズが膵臓がんの宣告を受けた後にスピーチした言葉を紹介します。(彼はこの 8 年後に 56 歳の若さで死去しました。)

「‘死’は、我々すべてが共有する運命だ。それを逃れたものはいないし、今後もそうあるべきだ。なぜなら、死は生命最大の発明なのだから。‘死’は、古きものを消し去り、新しきものへの道をつくる。」

‘1 つのいのちの歴史’の側面だけで‘死’を見つめると、それは主観的な人生の良し悪しへの感情にスポットがあたり、時には悲嘆や喪失、未知ゆえの恐怖といった、できることなら目を背けたい体験として捉えられるかもしれません。

一方、‘38 憶年の生き物の歴史’の側面を含めてみつめると、新しい世代の生命を大切に育て、道をつくりバトンタッチすることは決して悲観的なものではなく、‘死’にさえ使命感を感じる…といったような話を当時の仲間としたことを思い出します。

さて、先日の診療で、90 代のお母さまの人生の終末期を見守られているご家族がこんなことをおっしゃいました。

「すっかり忘れていたけど、母を見ていて思い出しました。昔はみんな家で亡くなっていましたね。穏やかに最後の呼吸をするのを親戚一同で見守っていました。お別れすることは寂しいけれど、死は恐ろし気なことではなかったですよね。」

齢90年を生き抜いたこのお母さまは、最期の姿を次の世代に看取ってもらうことで残されたご家族に道を示されたのだと感じました。

私自身も、次の世代に道を示すような生き方をしたいものです…

…と、その前に、自分よりも優れた遺伝子をもっている娘たちに、偉そうなもの言いをしていた自分を、まず、反省せねば…