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2017年9月5日

私の医療の視点が大きく広がった

ももたろう往診クリニックでは、岡山大学医学部から実習生を受け入れています。
実習を終えた学生さんの感想をご紹介します。

岡山大学医学部6回生 【実習期間】2017年8月 2週間

以前より私は在宅診療に興味があり、岡山県の東部の地域や他県での在宅診療を見る機会がありました。在宅医療の現場を見ることで、その地域の地域性がよりよく理解できるように思います。しかしながら、実際に今住んでいる岡山市の在宅医療の現場を見たことがなかったため、今回2週間の実習を希望させていただきました。
これまで実習の期間のほとんどを大学病院で過ごして来たわけですが、今回の実習を通して、これまで自分が医療に対して抱いていた違和感というものを解消することができました。病院での医療では、医療の中に患者さんがおり、フィールドは医療者が中心になります。しかし在宅診療においては、患者さんの生活の中に医療というものがあり、患者さんのフィールドに我々医療者がお邪魔するという形に感じられました。本来病院での医療もこのように捉えるべきなのだと思いました。医療は患者さんの生活をより良くする一つの手段であり、施した医療によってどのように患者さんの生活が良くなったのか、あるいは変わらなかったのかという点がこれまでの病院での実習では見ることができず、もやもやした気持ちを抱いていました。この2週間で、急性期を過ぎて病院を退院され、家での生活に戻られた患者さんの姿をたくさん見させていただき、急性期病院での治療のその後の姿を明確にイメージできるようになりました。病院だけでなく、家、介護施設、訪問看護・介護、ケアマネージャーなど、様々な医療の現場、役者を見ることができ、私の医療の視点は大きく広がったと思います。
 多くの患者さんを訪問させていただく中で、脳卒中後の患者さんが多かったように思います。脳梗塞、脳出血という一瞬のうちに発症する病気が、どれほど長い間患者さんの人生に影響を及ぼすのかを目の当たりにしました。私の祖父も脳出血を患い、再出血や腸閉塞のため何度も入退院を繰り返した後に亡くなりました。そのため物心ついてから祖父とほとんど会話した記憶がありません。そんな祖父の最期までの願いも「家に帰りたい」ということでした。脳卒中後でほとんど動けず、会話もできないという患者さんを見ると、そんな祖父の姿が重なります。自宅での生活の実現のためには、家族のサポートが極めて重要だと感じました。がんの終末期や認知症の患者さんを多く見ましたが、どのご家庭も家族による献身的な介護が続けられており、そのような皆さんの姿にただただ頭が下がる思いです。家族というつながりは切ろうとしても切れるものではなく、何よりも強く、頼りになる存在なのだと感じました。家で24時間365日様子を見るのは家族であり、我々医療者はそこに少しお邪魔をしてその手伝いをさせていただく立場なのだと思いました。また、それだけに介護者である家族が無理をしすぎないように気を配り、頼れるものは頼っていこうという姿勢が大事だと思いました。
 ももたろう往診クリニックは在宅での看取り、緩和ケアにも力を入れられており、がん性疼痛のモルヒネ療法など在宅でここまで診療することができるのかと驚かされました。デバイスの進化やシステムの整備により在宅で行える診療の幅は広がっており、家で最期を迎えたいという方の願いをより叶えられるようになって来ているのではないかと思います。このような選択肢を提示できることは、社会資本として大きな意義を持っていると思います。
 患者さんのご自宅を訪問することで得られる情報はたくさんあります。どんな広さの家で、どれくらいきれいな家で、食事はどんなものを食べていて、昔はどんな人生を歩んでいたのか、という情報はなかなか病院では得難い情報ですが、家の中を見渡すだけで知ることができます。患者さんは1人1人全く異なる人生を背負い、異なった環境に住んでいますが、病院の診察室や病室に現れてしまえば同じように見えてしまいかねないということに恐ろしささえ感じました。そのような状況を知らないと、実際家に帰ってから治療がうまく行くか、生活が改善されるかという判断を大きく誤ってしまう可能性があると感じました。
 今回の実習が、私の医学生生活にとって最後の実習でしたが、初めて知り、感じることだらけの非常に充実した実習になりました。患者さんの人生に寄り添い、心に寄り添う、医療者としての原点を感じる現場であり、このような現場で学生生活の最後を迎えられたことを嬉しく思います。